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 ✤ 円撫SS
Posted on 23.2012
おそらくあれは、ドキュメンタリー番組だったのだと思う。
曖昧となった記憶の中の、渇いた大地の色をした名前も知らない遠い国。
そこに迷い込んだような、居心地の悪さも薄れて、
時が過ぎるただそれだけで、私は、この瓦礫の街にも慣れてしまうのだ。
近道なんてものも、見つけてしまえるのだ。


「そういうトコ、あまり通らないで欲しいんですけどね。何かあった時、捜すの面倒でしょ」

背後に、ぼそぼそと呟くような円の声を聞いた。

「ああ、つけてたわけじゃないです。帰り道が同じなら、一緒に帰りますかくらい声をかけるでしょ」
「でも、珍しいわね。いつも一緒に帰ろうって声をかけるのは私だったわ 」
「それ、僕じゃありませんし」

円は少し、むっとした顔をする。
十一歳の彼と、ビショップという彼を、区別しない言い方に不満があるのかもしれない。


「キングと取引をしたり、レインさんとも何やらあるみたいですけど、順調ですか?」

あの二人を相手に、馬鹿ですね、という円の心の声がだだ漏れて来る。
この世界に来て、あれこれと考えてみて、自覚した事。私には、決定的に経験が足りない。
あの時、ああでなく、こうすれば良かったのだと、これからきっと、何度でも思う。
十二歳から普通に生きて過ごした十年後なら、上手く言える事、出来る事を、今の私は知らない。

「私は鷹斗を止めようとしているけれど、私が間違っていると思ったら、円は私を止める?」

彼は意外にも、困ったように、眉をひそめた。
どうして僕がとも言わず、黙った。それが、少し嬉しかった。

「十二歳の私は、円が好きだったと思う」
「十一歳の僕は、あなたが好きだったと思いますよ」
「あら、両想いだったのね」
「だけど、あなたが今いるのは、その未来じゃないんですよ。僕じゃない」
「知ってる。あなたに対しては自惚れたりしないから、大丈夫よ」

私はそんな会話をする間も、足元を見ながら、瓦礫に躓いてよろける事もなくなったなあ
なんて事を考えていた。
そして、もうすぐ、CLOCK ZEROが見える。
振り返ると、円は何故か、少し後ろで立ち止まっていた。
本当は用事があったのに、ここまで送ってくれたのだと思い、ありがとうと言って手を振る。
けれど、円は立ち去らない。
ああ、そうか。敷地内に入るまで見届けるつもりなのかと、急いで路地を抜けようと駆け出す。
何だか、門限に慌てる子供みたいだと可笑しくなった。
ふふっと、気を抜いていたところを、後ろから円の腕に腹部を抱えられた。
急で驚いたけれど、声はあげなかった。そう訓練された人間のように。
ああ、全く、人間は悲しいほどに、置かれた環境に慣れる生き物だ。

近くに危険がある。だから、円は私を引き留めたと瞬時に判断して、
それは何処だと、私は円の視線で確かめようと彼の顔を見上げた。

円の目は、見えない。近過ぎて見えない。

どうして、円が私にキスしているのかも分からないまま、
私達を隔てるものの、どうしようもなさに泣きたくなった。




ある筈のない過去。あった筈の過去。する筈のないキス。する筈だったキス。


彼は何処ですか。私は何処ですか。あなたは誰ですか。私は誰ですか。





本当に知りたい事は何ですか。











円はただ、

「キングに知れたら厄介ですし、だから、これは、僕との取引に使っていいですよ」

と、笑った。





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cetegory : 乙女ゲーム二次創作  ✤   ✤ 
2012年02月23日(木)  12:57 by 菊永まき

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