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 ✤ 茜森
Posted on 08.2006
「大介!あんたの陰謀ねっ?」
グランドはずれで『訓練中』の自分を、ようやく捕まえた姉が、肩で息をしながら叫ぶ。

「・・・人聞きの悪い言い方すんなよ。陰謀なんて狩谷じゃあるまいし」
サンドバッグに手をつき、すぅっと呼吸を整えてから言った。
姉は言葉が見つからない様子で、自分を睨んでいる。
僕は、姉に口で勝つ自信ならいくらでもあった。

「つまり、ねえさんは、ねえさんをたった一日で2番機パイロットから3番機整備士に戻したのは僕だろうと、そう決めつけているわけなんだね?」
ワザとらしいくらい丁寧に、ゆっくりと言ってみる。
普段の自分をよく知っている者には、嫌味でしかないくらいに。

「・・違うん?」
「大当たり・・・僕だよ。でもさ、だから何?自分にパイロットが務まるとでも思ってんの?」
キツイ口調ではなかったが、淡々と、何かのついでのように言われるのも胸が痛いのか、姉はぎゅっと、手を握り締めた。

「まあ・・最初から速水と3番機に乗るなんて夢、見なかった事は褒めてやるよ。でもね、同じパイロットになろうなんて、バカだね」
訓練は諦めた。校舎の方に向かって歩き出すと、すぐに姉の声が追った。

「何であんたにバカ言われなならんね?速水くんと芝村さんと壬生屋さん以外はみんな似たようなもんやがっ」
まだ、学校には皆が残っている時間帯。吐き出すような声も押え気味だ。


「2番機ね、僕が乗るから」
「え?」
「正式には、明日から」








+++ 繋ぐ手 +++





「・・ホラ」
なだめるようにコンビニで買ったジュースを渡す。姉は受け取ったけれど、飲もうとはしない。
ガードレールに腰掛けると、姉もその横に座った。

「何?一応心配?」
くすっ・・と生意気な顔で笑ってみせた。
でも、姉は俯いたまま、手の中の独特の形をしたジュースのビンを、力なく握っている。

「何かさぁ・・言い返してよ」
溜息とともに吐き出した声が、しまったと思うほど優しくて、苦笑した。

「速水くんも芝村さんも壬生屋さんも、いつも帰って来るわ。スカウトの来須くんも若宮くんも。でも、友軍は同じ戦闘で沢山・・・」
少し落ち着いたのか、姉の言葉は標準語に戻っている。
姉の訛りは、僕が弟になる前に、姉が育った遠い地の言葉なのだろうか。

「確率は、極力減らすさ。その努力はする。僕は『万能』じゃない。無難に何でもこなす『便利屋』だからね。・・・僕も、いつも帰って来る。みんなと、帰って来る。それでいい?」
そう言い、姉の手の中にあるジュースを取った。


ポン・・


栓を抜くと、炭酸がわずかに吹いた。一口飲んで、また姉に渡す。
「それさ、覚えてる?」
「それ・・?」
「こっちの話。それより、滅多に人に奢ったりしない僕が買ったんだ。飲めよ」
「ジュース一本で偉そうに」
いつもの憎まれ口に何となくホッとしたのか、こくんと飲んだ。


おそらくあれは、ちょっとした子供の癇癪で、何の用意もなく家を飛び出したのだ。
主犯は姉か、自分か、どちらだったのか。
覚えているのは、知らない道を二人何処までも歩いていた事。
夏休み。熱をもったアスファルト。前方には陽炎。麦藁帽子が、姉の顔に濃い影を落としていた。
決して、仲が良かったわけじゃないのに、汗ばんでも繋いでいた手。
坂の上にあった小さな店で、姉はラムネを二本買った。
ただ、それだけの出来事だ。姉が覚えてなくても無理はない。


「なあ、まだ162cm?」
「まだって、私はもうこれで伸びないわよ」
「僕は159だ」
「私と張合ってどうするの。それに、あんたはこれからでしょ」
そう。これから、骨もきしむ程の成長期に入る身としては、3cmはたいした数字じゃあない。


「飲んだ?じゃあ、帰るよ」
空きビンを買った店に返し、姉の立つ場所へ戻ろうとすると、二人の間を通り過ぎた車の音に、消されかけた声を聞いた。


「・・・絶対に死んだら、いけませんからね」







いつも、二人一緒に帰っていた。
帰りが遅いから、だから仕方なく姉と一緒に帰ってやる、そんな態度で。
実際、何か照れくさいものだし、それはそれで、嘘ではなかった。

だけど、今日は、どうかしていると思われてもいい。手を繋いで、帰ろう。


「重くないから、いいわよ?」
差し出された僕の手を見て、姉は肩に掛けた自分の鞄を軽く持ち上げた。
笑って首を振り、手をとる。そして、歩き出す。

決して、仲が良かったわけじゃないのに、汗ばんでも繋いでいた手。懐かしい夏の記憶。
違和感は、季節のせいではない。手は、すでに僕の方が大きくなっていた。


「何何何か、近所の人に見られたら恥ずかしぐね?あんた、どうしたの?」
困り顔で、僕の制服の肘の辺りを引っ張る。僕は、構わない。

「・・・何か、罰ゲームみたい。何であんたと手を繋いで帰ってるんだろ」
ヒドイ言われようだが、振り解くわけでもなく。



「ねえさん、まだ速水を好きでいろよ」
「だから、どうしてあんたにそんな事まで言われなきゃならないの。しっかも偉そうに」
呆れたように、まだ余裕の標準語。
「他は・・来須でもいーや」
「何でそこで全然違うタイプを持って来るんよ?」
ちょっと、訛った。少しの動揺。
「教えない。怒るし」

姉が速水を好きな内は、僕は安心していられる。来須でもそう。
彼らは、きっと、姉を好きにはならないから。

姉が好きな人は、姉を好きになってはダメ。中々、分かり易い事を考えている自分が可笑しい。
しかし、このくらいを望むのは、許されるだろう。こっちは『弟』から、始まったんだしね。



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cetegory : 他ゲーム二次創作  ✤   ✤ 
2006年09月08日(金)  17:28 by 菊永まき

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