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 ✤ 来舞
Posted on 08.2006
※このお話は、
『猫と住む人』の続きになります。が、お読みになってなくても差し支えないと思います。
2行目の『魚の骨』が何の事やら分からないだけで。
ネタバレ、といいますか、むしろ善行の関東帰還を知っている方対象(笑)






+++ 二重星 




「どうだ」
舞は親にほめて欲しい子供のように、弁当箱の中の魚を見せた。正確には、魚の骨だ。

「よく出来ました」
善行はいつもの動作で眼鏡を上げると、苦笑にも似たわずかな笑顔を見せた。



「お前、いつから私が好きだったのだ?」
くるりと善行を振り返り、舞は無邪気ともいえる質問をする。

「・・・答え難い事をさらりと聞いて来ますね、あなたは」

やはり善行はそう言った。
出来れば、そこで話を終わらせたかったのだが、舞は待っている。

「おそらく、あなたと同じ頃からですよ」
「ふん、私がいつからお前を好きだったかなど、私にも分からんのだぞ?」

舞は、まだ納得出来ないという様子で善行を見ている。
しかし、善行は舞の頭をぽんぽんと撫でる事で、今度は話を終わらせた。

「明日な、ここに行きたいが良いか?」

次の日曜日には、一緒に出かける約束をしていた。それが、明日だった。
舞がごそごそとポケットから取り出し見せたのは、博物館(プラネタリウム)のチケット。
投影機のシルエットと夜空の絵が書いてある。

「明日は雨というし、プールは寒かろう?
 サッカーなら多少の雨でも試合をするから、サッカーの方が良いか?あるぞ」

面倒とばかりにチケットの束を取り出した舞。
準竜師は一体どんな顔でこれらの陳情を受けたのだろう。善行はくらりと頭を抱えた。
抱えて・・何だかどうしようもなくて笑ってしまった。

「・・おい・・・」
声を出して笑う善行なんて予想外である。舞は笑われた事を怒りもせず、呆然と彼を見ていた。

しばらく笑って、善行はゆっくりと顔を上げた。
泣きそうな笑顔の下に、静かな決意があった。






+++ 



朝のHR。
本田からの報告は簡単なものだった。

「コラ、芝村。何処へ行くんだ」

本気で止める気などない本田の声は無視して、舞は教室を出た。
重苦しい雰囲気を教室に残して。

(・・・なぁ、芝村さんも知らんかったみたいやけど・・)
(ええ・・急だとしてもあんまりですね・・)


「コラ、来須。何処へ行くんだ?」

今度は大目に見るわけにはいかないとマシンガンをかまえる。
来須は大きな手で銃身を掴むと、銃口を天井に向けた。
慌てて舞を追う様子もなく、彼はゆっくりと出て行った。

舞の足音は下へと消えた。屋上ではないとなると、行き先は沢山ある。
しかし、来須は迷う事なく小隊隊長室へと向かった。




入ると、舞は司令の机に突っ伏していた。
肩は震えていない。「誰だ」という声も泣き声ではない。
顔を少し上げて、入口を見る目も赤くない。

「・・・・・」
「・・・・・・・」

「・・・・・・うるさい」
「何も言ってない」


「・・・・・・・・昨日、行くはずだった」

舞はプラネタリウムのチケットを取り出し、机の上にパサッと置いた。
校門前で待っていたのに来なかった。ひどい男だと思った。


「あの男は『行く』と言った」

帰還。
少なくとも、ずっと考えていた事とは思えない。彼に一体何があったのか?
舞は善行の意識の変化に置いて行かれた。




「行くと 言っ 」


言葉は途切れて、能面のようだった表情が崩れる。
見開いた目にたまった涙が、ぎゅっと瞑った瞬間ぽろぽろと零れ落ちた。


「次の日曜に、俺と行こう」
「戯け。お前と行ってどうするのだ。私はプラネタリウムに行きたかったわけではない」
「俺は代わりだ。お前は、行くはずだった場所に行っておいた方がいい。
 約束事は、果たされなければいつまでも心に残る」

来須は舞の返事も聞かずに机の上にあったチケットを取り、小隊隊長室を出た。
そこで、召集がかかった。こちらの都合に関係なく、幻獣は出る。







+++



いなくなるなんて、思いもしなかった。
けれど今は、

   もう帰って来ない

その予感だけが。



+++






トン・・トトン・・とんとん・・トン・・とんとん・・

小雨の朝。校門の前。
白地に赤い小花模様の傘を手に、髪を下ろした舞が立っていた。



トトン・・トン・・   

見上げると雨雲は薄く、傘を叩く雨音も弱い。この分だと午後には晴れるかもしれない。

「天気まで同じか・・これでは、まるで時が戻ったようではないか・・」

せめて、善行が来ないのは分かっている。
あの日のように、不安な気持ちで傘を握り締めなくてもいい。

ここに立ち、来須を待って、来須が来て、一緒に博物館へ行って、それでどう変わるというのか、
舞にもそんな事は分からない。
ただ、叫びたいのに声が出ないような、足元がずっと揺れているようなこの気持ち悪さを、
来須はわかっているような気がした。
それならば、彼の言う事には意味があるのかもしれない。
そう思って、来てみたけれど・・


傘をたたむと、正面の道に来須の姿が見えた。






+++



ゆるい坂を上りきると、博物館がある。
途中で、独特の形をした屋根が見え始めた。
濡れたアスファルトがもう所々に乾き斑になっている。
夏はまだ遠いというのに。




金色の3.1等星とエメラルド色の5.4等星の美しい二重星。
「天上の宝石」と呼ばれているこの星の名はアルビレオ。
しかし、来須は星座を追うわけでもなく、ただ悲しそうな目をしてドーム型の天井に映し出される人工の星空を
見つめている。

夜独特の開放感からか、舞は小さな声で来須に聞いてみた。

「何故、男は突然いなくなるのだろう。理由があるなら告げて行けと思う。
 それとも、私に原因があるのであろうか?みんないなくなってしまう・・のは」
「俺は、善行の理由しか分からん」

「善行はお前には話したのか?」
「あの男は誰にも話さない。だが、分かる」

「聞けば、教えてくれるか?」
「・・・嫌いになったのではない、とだけしか言いたくない」

「言えないのではなく、言いたくないのか?」
「そうだ」

舞はしばらく来須の顔を見つめていたが、座り直し、また星空に視線を戻した。
もう、それ以上を聞いては来なかった。

遠く離れた地で、本来の力を発揮する決意をした彼を、いつか、舞も知るだろうか。
そばにいて盾となり守るよりも、もっと大きな翼を広げた彼に、いつか、舞も気づくだろうか。





「俺と来い」

「何処へだ?」
「何処へでも連れて行く」



「私は、お前が好きになるかもしれない。だが、今は善行が好きだ」
「それでいい」

善行が好きだった。
それでも、肩を抱く来須の腕は、心地良い。















                                連れて 行って











外へ出ると、薄い雲の向こうに、太陽が見えた。
雨は、東へ。






+++



「上級万翼長、傘を」
「小雨ですよ。すぐに止むでしょう」
「まだ、冷たいですよ」
「大丈夫です。丁度、心地良いくらいですよ」

あの日、こんな小雨の中を待っていただろう少女を思うと、身勝手にも心が痛む。
今は、まだ泣いているのだとしても、少し未来の君は

幸せであれ





少し未来の君は 幸せであれ









++++++++

(2002.3.18作品)


『善行が関東に帰還します。
 もう善行は、帰ってきません』

この『もう帰って来ません』てのが淋しくて善舞にハマったような記憶が(笑)
帰還イベントがなかったら善舞はさほどでもなかったもだ。
言葉通りもう帰って来ない人であって欲しいので、わたくしの中では善舞にハッピーエンドはなし(酷)

『猫と住む人』がほのぼのとしているので、続きのこれを書き上げる気にならず何ヶ月も放置。
今では善舞(来舞)目当てに来てくださっている方もいらっしゃらないのではと思うが、
ここに来てようやく仕上げたので出すべし出すべしと。

ラストですが、善行は『君』ではなく『あなた』でしょうが、文字の流れ的に『君』の方がしっくりと来るので。
(そんな理由じゃイカンだろうが)

告白は屋上と決まっているのですが、勢いで言うておけや来須と(笑)
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cetegory : 他ゲーム二次創作  ✤   ✤ 
2006年09月08日(金)  17:27 by 菊永まき

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