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 ✤ 滝萌
Posted on 08.2006

一歩、片足を前に。その後はホラ、歩き出せる。






+++ もうひとつのハル



「石津さんは?」
「・・・え・・?」
「一緒に味のれんに行く?」

速水にそう言われて、俯いたまま周囲を見回す。
瀬戸口の靴。来須の靴。滝川の靴。
味のれんというからには、滝川がお昼の提案をしたのだろう。

「わたし・・は・いい」
「そう?じゃあまたね」

昨日見たテレビアニメの話をしながら教室を出る滝川と速水の後に瀬戸口と来須が続く。
萌は瀬戸口と来須の事は好きだった。彼らは遠くで見るべき存在という安心感を与えてくれる。
彼らの知らない所で彼らに憧れるこの気持ちは自由だ。

それぞれに特徴のある足音が、プレハブの階段を降りてだんだんに消えた。



+++



軽く仕事をしてから整備員詰所で一人お弁当を広げて食べていると、
バタバタと騒がしい足音が近づいて来たので萌の箸が止まった。


ガラッ

勢い良く開いた扉から、眩しい陽射しに照らされた外が見えて反射的に目を細める。


「あ、気にしないでいーから」

滝川は救急箱から消毒薬を取ると、慣れた手つきで膝の擦傷にそれを塗った。

「食べてる時に薬品の匂いさせてゴメンな」
「・あ・・・うう・ん・・・・・・ケン・カ?」
「いや、転んだ」

そんな子供のような理由をさらっと言う。 勿論、それは嘘ではなく本当で。
萌は何と言っていいのかわからずに、お弁当の卵焼きを口に運んだ。


「弁当、自分で作ってんの?」
「・・あ・・うん」
「キレイに詰めてんだな。女子の弁当ってみんなそうなのか?こんな薄暗い所で一人で食べるのは勿体ねえぞ」
「・・・・・・」
「明日さぁ、オレ、購買でパン買うから、その、天気が良かったら屋上で食わねえ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・あ・・う・」
「まあ、気が向いたらでいいからさ。明日、また誘うから」

滝川は鼻の下を指でこすると、にかっと笑った。
箸をくわえたまま、来た時と同じようにバタバタと騒がしく出て行く滝川の後姿を見送る。
言葉を交わしたのは、今日が初めてだった。



+++



「屋上、混んでるの?いい天気だものね」

Uターンして来た舞と来須を見て、プレハブ校舎二階にいた原はそう言ってよく晴れた空を見上げた。



+++



滝川はコーラとやきそばパンを空いた椅子に置き、パリパリとサンドイッチの包みを開けた。
それを見て萌も自分のお弁当箱のフタを開けた。

「速水のサンドイッチも美味いんだぜ。中村や速水は料理得意でさ」
「・・そう・・」
「あいつらが作ったクッキーもすっげー美味いんだ。今度もらったら石津にも分けてやるからな」
「・・あ・・」

萌がもそもそとゴハンを数回口に運んでいる間に、滝川はサンドイッチを食べ終え、
今はやきそばパンをもぐもぐ頬張っている。
以前、味のれんで見かけた時、滝川は一番安いアップルパイを食べていた。
一日二食の外食なら食費もかなり必要になる。栄養的にも偏りがあるだろう。
成長期とはいえ小柄な滝川だが、その食べっぷりからして食欲は旺盛であるらしい。







「・・たべ・・る?」

萌は俯いたまま、思い切ったように楊枝をさしたいんげんの肉巻きをバッと滝川に差し出した。
いきなり萌の手が目の前に出され、滝川は驚いて顔を後ろに反らす。

「えっ?ええ?いいの?」

滝川は嬉しそうにそれを受け取ると、ぱくんとかぶりついた。
醤油の味が肉にしみていて、いんげんも丁度良い歯応えである。
ちょっと焼き過ぎて固くなってはいたが、十分に美味しい。
勿論、そう思うのは萌の手作りという付加価値があるからなのだけれど。 

「うん、やっぱ美味いわ。へへへサンキュな」
「・・・・・」


先に食べ終えた滝川は、ゆっくりとコーラを飲みながら、色々な事を萌に話しかけた。
戦争の事、学校の事、仕事の事、家に帰ってからの事。

「この前の日曜日さ、みんなでボウリング行ったんだ。
 ブータのヤツが器用にボール転がしてさ、しかもそれがストライクになるんだから驚くぜ」
「・・そう・・なの」
「石津もさ、今度一緒にどっか行かねえ?」
「・・・・大勢は・・苦手・・なの」
「じゃあさ、二人ならいい?」
「・・・・・・あ・・」

萌にはどうして滝川が自分を誘うのか分からない。
自分は一緒にいて愉快な人間ではないし、滝川と話が合うとも思えない。
でも、今、こうしているのは不思議と居心地悪くなかった。

「嫌?あ、はっきり言ってくれていいんだぜ?俺、察しが悪いから」
「・・・・・・・・・・・嫌・・」
「あ、はははは・・やっぱり?」
「・・・じゃない」

萌はほんの少し顔を上げて、滝川を見た。頬は、ほんのりと赤い。
言葉を交わしたのは昨日が初めてなら、目を合わせたのはこれが初めてだった。


「じゃあさ、どっか行こう。石津、何処行きたい?」
「・・・・・・プール・・」
「よっしゃあ!」
「・・以外」

顔を輝かせて振り上げた拳をがくっと落とす滝川を見て、萌は小さく笑った。








滝川の持ち物の中に『萌の手作り弁当』が登場するのは、それから五日後の話である。




+++++

(2002.6.4作品)
以下当時のコメント。
滝萌も可愛らしいカンジで好きなのですよ。
この人たち設定がとてつもなく暗いんですけど、
だからこそほのぼのと幸せ~なカンジを書きたいですね。
今回はさあこれからって所で終わりますが(それ、得意だな)。
タイトルは、来舞の「ハル」から。考えるの面倒がりやがったなと思ってくれていいです。その通りだから(笑)
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2006年09月08日(金)  16:46 by 菊永まき

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