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 ✤ レイ撫 二話目 ( SS )
Posted on 06.2011
「 ・・・彼女、もう下に降りてんですか?そうやって面倒な事、いつも押し付けてくれますよね 」

「 はー・・・。ま、いいですけど。理由は何です?」

「 ですから、僕と代わる理由をください。急用でも、体調不良でも、何でもいいですから 」

「 ・・・・・りょーかい 」


通信を切ってから、しょーがない人だ、と呟いておく。
どんな仕事も淡々とこなすかと思えば、気紛れにサボりもする。それがレインという先輩だ。
彼女の世話も、彼にとっては他の仕事と同じというなら、実に彼らしく、
そういった性質が、今は羨ましい。

「 ・・にしても、キングからは彼女の事を最優先でと言われてるでしょーに 」

誰もいないのをいい事に、エレベーターの中で愚痴り続ける。
エントランスに出て彼女を捜すが、近くにはいない。
普通なら、見回せば足りる広さだ。周囲に弱視を覚られないよう、ゆっくり歩き出す。
彼女らしき人影。正面のガラス扉に張り付いている人物、おそらくあれだ。
気配で、こちらに振り向くのが分かった。
更に、表情が分かるくらいに近づけば、あからさまに嫌そうで、ほっとする。

「 失礼な人ですよね。あなた 」
「 何?いきなり・・・。あなたの方が、いつも失礼だと思うんだけど 」
「 自覚、ないんですか。まあいいです。僕も忙しいんで、さっさと行ってさっさと帰りません?」
「 レインは急用?」
「 らしいですね 」
「 そう・・・。円も忙しいのに、来てくれてありがとう 」

もう一度ガラス越しの夕焼けを見つめてから、
彼女は自室に通じるエレベーターに向かって歩き出した。

「 外、行かないんですか?」
「 ええ。散歩はやめるわ 」

それなら、自分は予定通りの仕事に戻るだけだ。
この無駄足に嫌味を言うのも面倒なので、黙って、彼女とは別の方へ足を向けた。

「 ま ど か ー っ 」

「 何ですかもう・・・」

こちらの呟きは聞こえない距離から、思い切り名前を叫ばれた。
彼女はエレベーターの前で、ずっと遠くにいる人を呼ぶように、腕を大きく振っている。
手招きなんて、可愛いもんじゃなく。

ああ、そうか。彼女は僕の弱視を知っていた。
彼女が僕を知るひとつひとつの事で、『 円 』は彼女が好きだったと分かる。

昇るエレベーターの壁にもたれると、彼女はその反対側に立った。
こんな時にも姿勢良く、手を前に重ねている。

「 散歩じゃなくて、話し相手が欲しかったんですか?
仕事ですから相手しますけど、僕と話しても愉快ではないでしょう 」

彼女の部屋の前まで来て、我ながら、往生際の悪いセリフを吐く。

「 違うわ。あのね、私の散歩につき合わなくて良くなっても、円は他の仕事に戻るでしょう?
だったら、私につき合ってた時間の分、休んでくれないかしら。だって、さっき、すごく疲れた顔したわ 」

どんな顔をしたのか、自分もまた、自覚がない。
疲れた顔に見えたのなら、そんな顔をしたのだろうが、別に疲れてはいない。

「 良かれと思って言ってんでしょうけど、あなたの部屋でぼーっと座っている方が疲れます 」
「 ベッドで仮眠を取ったらどうかしら?レインも私の勉強を見る時はよくそうするもの 」
「 僕は眠れませんよ。あなたの側でなんか 」

自嘲から発せられた声は、いつもより刺もなかった。
けれど、何も知らない彼女には、ただ、酷い言葉だ。


「 ・・・あなたが私を嫌っているのは知っているけど、その態度は私より子供っぽいと思うわ 」

傷ついてなんかやらない。そんな強い口調が心地良い。
でも、大きな瞳が揺らいでいる。

「 僕は、あなたの事は嫌いじゃないですけど、僕の事は嫌ってくれていーですよ。
ですから、僕がこの先、うっかりあなたに優しくしても、ちゃんと嫌っていてくださいね 」
「 何それ。あなたが私に優しくするなんて、想像すら出来ないわ 」

苦笑して、ようやく彼女が一歩、部屋の中に入った。
僕は外から手だけを伸ばして、扉を閉めるスイッチを押す。


「 あなたに貰った時間の分は、仕事しません。ありがとうございます 」


振り向く顔に、長い髪の先が少し遅れる。そう、動いたら、こんなだった。
少し見開いた瞳は、初めて声をかけた時の、顔を近づけ過ぎた僕に驚いた瞳と重なる。
あれは、彼女の知らない女の子。そして、僕は彼女と手を繋いで帰った少年を知らない。

思考を遮るように、目の前で閉まった扉にほっと息をついて、さて、どうしようかと適当に歩き出す。
手持ち無沙汰な様子を誰かに見つかれば、すぐに仕事を頼まれてしまう。
誰とも会わない非常階段で一階まで下り、外に出ておくかと、結局、エントランスに戻ると、
ミニッツのメンバーにあれこれと指示を出すレインの声が聞こえた。
ミニッツは体格の良い者が多いアワーとは真逆で、背は高くても、やたら細かったり、
まあ、いかにも研究者という人間ばかりだ。
中でもレインは、そんな彼らにでも囲まれると姿が隠れてしまうくらいに小さい。
白衣の集団が散ると、中心から現れたレインがこちらに気づいた。

「 あれー?彼女と散歩に出てくれたんじゃないんですかー 」

別にどうでもいいですけど、という目で笑う。

「 やっぱり行かないと言われました。ああ、そう仕向けたわけじゃないですよ 」

それならばと用を言いつけられもしなかったので、何となく、レインの後ろをついて歩く。

「 僕に何か用ですかー?」
「 思いがけず暇になったもので、適当にうろついてるんです 」
「 はあ?君のお仕事は山程あるでしょー。それ、してくださいよ 」
「 それが、撫子さんと、あと三十分くらい仕事してはいけない約束をしたもので 」
「 何ですかそれ。そんな約束、破ればいいのに 」

口の端を上げたまま、鬱陶しそうに言う。これも、いつもの事。
ある時期から時を止めたような容姿と声が、彼の言動に似合っている。
初めて会った時の印象はろくでもない。
笑っているのに、笑ってないようで、笑ってないのに、笑っているようで、
後に、これが平気で嘘を吐ける人間の顔だと知った。

「 ・・・それより、本当に急用だったんですか。てっきり自室でサボってると思ってました 」
「 どうでしょーかねぇ。見ての通り、もう済みましたから。これからサボるとしますか 」
「 レイン先輩は、女の子の相手が苦手なんですか?」
「 えー?君らよりはマシでしょー。僕は上手くやってるつもりなんですけどー」

不満気に口を尖らせる。そんな表情を作ってみせるのが、いちいち嘘くさい。
でも、何故だろう。
たまに、彼女といる時に、困ったような優しい顔をする、あれだけが嘘じゃないように見えたのだ。
だからといって、それを口にする気にはならなかった。
この人に本心というものがあるなら、自分には分かれない。
それは、どうしたって分かる事が出来ないものだ。

本当にサボるかと思えば、レインは撫子の部屋へ通じる方のエレベーターの前に来た。
気が変わって、彼女の相手をするのだとしたら、彼にとっては仕事、でいいのか。
結局、僕はそんな事さえ分からないでいる。
彼女の部屋がある階に点いていたランプが、段々に降りて来るのを見上げながら、
レインは去りかけた僕を引き止めた。

「 ねえ、円くん 」

目はランプを追ったまま、何となく、愉快そうに聞いて来る。

「 嫌われたら、楽ですか?」

「 ・・好かれるよりは楽ですよ。ですから、あなたは懐かれておいてください。
キングは気の毒なくらい避けられてるし、僕はこのまま嫌われ続けたいので 」

そうでなければ、いつか、もっと楽になろうとして、言ってしまうだろう。
あの日、どうして、事故は起きてしまったのか。そして、彼女は知るのだ。自分が誰かに、

「 ・・・・・誰かに、死ねばいいと思われて、実際に行動を起こされたと知れば、
どんな気持ちになるんでしょうね 」
「 あー、あの事故ですかー。別に殺すつもりはなかったのかもしれませんよ?
まあ、死んでもいいとは思われていたんでしょーけど。
それ、別に彼女が知る必要はないんじゃないですか 」
「 あの人、何も知らないでいるのとか、我慢出来なくなると思いますよ。
泣くのとか、そーゆーのは我慢するくせに 」
「 ま、僕はどっちでもいいですけど。どうせ、その内にキングが喋っちゃうでしょーから 」
『 じゃーなっ 』

一階のランプが点いて扉が開くと、さっきまで一言も参加して来なかったカエルがやっと喋った。
人形を片時も離さない成人男性というのは、本来は不気味に見えてしょうがないものだが、
レインの場合は研究の一部であるから、誰も何とも思わない。見慣れてしまった、とも言える。

彼が乗ったエレベーターは、さっきあったと同じ階で止まった。

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cetegory : 乙女ゲーム二次創作  ✤   ✤ 
2011年01月06日(木)  18:51 by 菊永まき

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