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 ✤ ヨハマリSS
Posted on 08.2006


「え?先生、娘さんがいらっしゃったのですか?」
「いいえ。まあ、いてもいい年なんですけどね。例え話ですよ。この国を娘のようだと思ったのは。
 異国出身の私がそう思うのは、図々しい事でしょうが」
「そんな事はありませんよ。ね、先生。手のかかる娘ですか?」

ヨハンはくすくすと笑って訊ねるマリンの声に目を細めて微笑んでみせるだけで、
また、窓辺にもたれ居眠りを始めた。
少し疲れたその横顔に影をつくる為、マリンは濃い緑色のカーテンを少しだけ閉めた。


  そう。

  例えば、幼くして死んだ娘が、もう一度、自分の前に現れたなら。
  この国は、私にとってはそんなだった。

  娘は、残酷な夢のように、私の心を捕えた。

  『あの時』からやり直せるかもしれないという誘惑に手を伸ばし、
  そして、今度は失敗しないと思うこの心は、もう人ではないような気がした。

  だけど、

  だけど、ほら、私が殺した可愛い娘が。


         大丈夫。今度は、誰にも殺させやしないから。


+++



「この偏りは問題ですね」

質素な昼食をとりつつ、魔法関係ばかりが上達しているマリンのデータを見て、
ソロイは深く溜息をついた。
特に武術が全くといって良い程伸びていない。
元々、少女はそれを苦手とするタイプだけれど、だからこそ、
他よりも時間を割いて克服してもらわなければ困る。
そして、武術を上げるとすれば、一番それを得意とするのは自分である。
スケジュールの変更を求めるために、ソロイはマリンの部屋へと向かった。
同じ神殿で暮らしていながら、しばらく顔を見ていない。
あのパラメータはつまり、マリンはソロイに教授されることを避けているという事だ。


扉の前で、中に人の気配がしない事には気づいた。
念のためノックをしてみるが、やはり返事はない。
昼食も魔法院でとっているのかと、また溜息をつく。



+++



「え?」

アクアと皿洗いをしていたマリンが、不思議そうに首を傾げて聞き返す。

「だーかーら、神殿からあのでっかい人が来てる」

ユニシスが台所の入り口から面倒そうにそう言った。
ちなみに、彼が後片付けをしないのは、昼食を作ったのが彼だからである。

「わざわざ来られるなんて・・何かあったのでしょうか。アクアさん、ごめんなさい。
 わたし、ちょっと行って来ます」
「うん、・・わかった」

ぱたぱたと急ぎ、ソロイが待つという部屋に行くと、困ったような笑顔のヨハンと彼がいた。
『お待たせしましたっ』というマリンの声に、ソロイはゆっくりと振り返る。
部屋の空気がいちいちそれに反応するような存在感。
それは、彼の体が他よりも大きいからだけではない。

「あなたの本日のスケジュールを見ました。
 午後はこちらの魔法院でヨハン殿に教えを受けるとありますが、変更して頂きます」
「え?」
「魔法はもう十分かと。それより、もっと武術を身につけてもらわねば困ります。
 それと、昼食は余所でなく神殿でとるようにしてください。
 他であなたの分を用意させるのは迷惑ですよ」
「あ・・ごめんなさい・・」
「いえ、たいしたものは出せませんが、迷惑ではないですよ。
 彼女が一緒だとユニシスもアクアも喜びますし」
「余所・・。つまり・・面白くない・・のね」

いつのまにか、アクアが体半分をマリンの後ろからのぞかせて立っていた。

「・・・何が、ですか?」
「アクアっ、すみません。気になさらないでください。子供の言う事ですから」
「ろくへんよく」
「・・・は?」

ヨハンの手で塞がれたアクアの口からは不可解な言葉が漏れ、ソロイは眉間の皺を更に深くした。
ずるずるとアクアを引き摺るようにして奥へ連れて行くヨハンの引き攣った笑いが、ソロイには不快だった。

「帰りますよ」
「あ・・では、これで失礼しますっ。あの、昼食ごちそう様でしたっ」
「マリンさん、休日にまた、遊びにいらっしゃい」
「先生・・結構・・ぬかりなし・・マリンに・・たーげっと・ろっくおん」

奥へと続く扉を少しだけ開けて呟くアクアに、ヨハンはやはり困ったような笑顔を見せる。
そして、ソロイがマリンの腕を引っ張るようにして出て行った方の扉に視線を戻し、彼はくすっと笑った。
『帰りますよ』というソロイの言葉に、わざと煽ってみせた自分もまた、大人気無いと。
そして、『休日にまた、遊びにいらっしゃい』という自分の言葉に振り返ったソロイの顔を思い出し、また笑う。

彼はきっと、自分がどんな顔をしたのか知らないのだろうと思った。
せいぜいその感情を否定し続けるがいい、とも。
本当の所は、ほら、困っているのでしょうと、ヨハンには彼の気持ちがよく分かっていた。
情熱はひとつの事に傾ければこそ容易い。
国なり、世界なり、そんな漠然としたただひとつの対象を愛してさえいれば、
少なくとも心は平穏であった筈なのに。

もっとも、

「恋に生きるには、あなたも私も、年を取り過ぎているけれど」
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cetegory : 乙女ゲーム二次創作  ✤   ✤ 
2006年09月08日(金)  16:38 by 菊永まき

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