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This Category : ガンパレードマーチ

2009.06.21 *Sun*

岩舞

「居心地が悪い」

コタツに入るなり、舞は不機嫌そうに視線を泳がせた。

「僕の部屋はいつもと変わりありませんが?」

そう。岩田の部屋はいつも散らかっていない。
散らかるものがないのだから、散らかりようがないのだ。
殺風景を通り越して生活感のないこの部屋が、舞はキライではなかった。

「お前の部屋が居心地悪いと言っているのではない。
 正月が、だ。いつもと違うというのは何とも落ち着かない」
「アナタは学校が好きですからねぇ。
 まぁ、すぐに過ぎますよ。すぐに、またいつもの日々です」

そう言って紅茶の入ったティーカップを舞の前にコトンと置くと、
彼も長身の体を窮屈そうに曲げて、コタツに座った。

「お前、何故今日はその・・何だ」
「はい?」
「何故顔に何も塗っておらんのだ?やはり正月だからか?」

さっきから言いたかったのはそれだろうと、そんな事は岩田にも分かっていたけれど。
ちらりちらりと見ては視線をそらす舞が面白くて、
岩田は目を細めて笑ったまま、答えずに彼女の顔を見ていた。
頬杖をつく手の長い爪もマニキュアはされておらず、細くきれいな、でも、男の手をしていた。

「した方がいいならしますケド?」
「別に・・・・・・・・・・・・構わん・・・・・・・が」
「が?」
「何故こちらに座り直すのだっ?
 いいか?コタツは四角い。そして一辺は壁に接触しておる。そして私がここに座っておる。
 この場合、お前は私の向かいに座るべきであろうっ?」
「それでもいいんですけどね、小さいコタツとはいえジャマですから」

舞の右は、壁。後ろも、壁。逃げ道の確保が必要だとは思わなかった結果がこれである。

「いつも顔に塗っている白いのはプロのピエロが使う特殊なものなので簡単には落ちないんですよ」
「そっ・・それは前にも聞いた」
「でもね、口紅はその辺に売っている安物なんですよ」
「ああああああんな色の口紅でもその辺に売っているものなのか?」
「エエ、だから、あれは少しでも擦ると簡単に落ちてしまうので」
「で?・・・っ」
「だから、せっかくですので、ね?」

舞はにーっこりと笑う岩田のアップに耐えつつ、やっと押し殺したような声を出した。

「・・・・口紅は何処だ?」
「その棚の小さい引出しですよ」

すくっと立つと、行儀悪くもコタツを跨ぎ、舞は岩田が指差した棚へと直進した。
そして、ガタガタと引出しを開ける。中はきれいに整理されていたので、口紅はすぐに見つかった。
ぐいっと手を伸ばし、それを岩田につきつける。

「やはり、してくれ」
「ハイハイ、わかりましたァ」

岩田は素直に口紅を受け取った。
だから、舞はホッと油断してしまったのだ。


重なる唇に、目を見開いたまま固まってしまうほど子供ではないつもりだったのに。

+++
2001年頃の作品ですね。
そのあとは勿論舞ぱんち。
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2006.09.10 *Sun*

茜森

『せいか』

蓋には確かに、油性黒マジックでそう書かれていた。


+++


「こんバカーッ!アイス返せーっ」

ソファーに寝そべった茜を組み敷く勢いで、精華は彼に伸しかかった。
間近で見るとさすがに綺麗な茜の顔も、今は怒りで気にならないらしい。
頭をぽかりと殴ってもまだ足りないという顔で睨み続けている。

「・・ってぇな。体重増えるのヤなんじゃなかったのかよ」
「週に一度の楽しみだべ!」
「シケたお楽しみだこと」
「うっさい!」

名前が書かれたものは他の者が食べてはいけない。
逆に、書いてないと食べられても文句は言えないのが森家の掟である。
精華はちゃんと書いていたのだから、ルール違反をした茜が責められるのは当然なワケで。

「はー・・わーったよ。作るよ」

そう言って、茜は面倒くさそうに体を起こした。

「へ?あんたアイスクリーム作れるの?」
「固まるまで時間かかるけど、いい?すぐに食べたきゃコンビニにでも買いに行くけど」
「あんた、上手いの?美味しいの作れるんなら、それで許してあげる」
「フツー。上手くも下手でもねぇよ」
「迷うような事言うわねぇ。んー・・まあ、一度食べてみるかな」





ガラ ガラ ガラ・・


茜は茶筒のようなものを、ボウルに入れた四角い氷の中で回している。
そんな古風な作り方を一体誰に教わったのか、少なくとも森の母親ではない事は確かだ。



ガラ ガラ ガラ・・


西の窓からの陽が、ダイニングテーブルで頬杖をつく精華の顔まで届いた頃、
アイスクリームはようやく完成した。


「・・・あ・美味しい」
とろりと濃厚な触感は、この頃のあっさり風味で慣れた舌には新鮮である。
ウエハースまで添えてある辺り、中々細かい。

「あんたも食べれば?」
「僕はさっき食ったからいい」
「あんな小さいの一つ食べたくらいで」
「別にアイスは好きじゃないし」
「じゃあ何で私のアイス食べたりするんだべさ」

茜はしまったという顔を、不機嫌そうな顔になり誤魔化す。
そして「イヤガラセ」と言い、せめて精華が投げたクッションは、避けもせず背中に受けた。
ちょっとかまって欲しかっただけなんて事は、絶対に言えやしないのだから。
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2006.09.10 *Sun*

来舞

まだ桜も咲かぬ3月の初め。

きゅっと高く結んだ髪を左右に揺らし、前を歩く。

あれは、

あれは、15にもならずに死んだ娘。



『誕生日な、皆が祝ってくれるというのだ。自分の誕生日が楽しみだなんて初めてだ』

そう言って、嬉しそうに笑った。
けれど、いつも、君が生まれた朝に君はいない。


立ち止まり、クネクネと腰を回したまま、小さくなる後姿を見送る。
校舎裏。皆が大きく回り込んで自分を避けて通る中、大きな体がすぐ横を通り過ぎた。

彼だ。

ニッと笑い、目を細める。


自分なら同じ失敗はしない。
そう思って何度も何度も彼女を守って来たけれど。

「その選択こそが間違っていたのかもしれませんねぇ」


だから、今度は、

「今度はアナタが守ってくださいねぇ?来須君」


イワッチ視点で2002年に書いたコネタです。


ついでにちび舞ラクガキ↓


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2006.09.08 *Fri*

茜森

「大介!あんたの陰謀ねっ?」
グランドはずれで『訓練中』の自分を、ようやく捕まえた姉が、肩で息をしながら叫ぶ。

「・・・人聞きの悪い言い方すんなよ。陰謀なんて狩谷じゃあるまいし」
サンドバッグに手をつき、すぅっと呼吸を整えてから言った。
姉は言葉が見つからない様子で、自分を睨んでいる。
僕は、姉に口で勝つ自信ならいくらでもあった。

「つまり、ねえさんは、ねえさんをたった一日で2番機パイロットから3番機整備士に戻したのは僕だろうと、そう決めつけているわけなんだね?」
ワザとらしいくらい丁寧に、ゆっくりと言ってみる。
普段の自分をよく知っている者には、嫌味でしかないくらいに。

「・・違うん?」
「大当たり・・・僕だよ。でもさ、だから何?自分にパイロットが務まるとでも思ってんの?」
キツイ口調ではなかったが、淡々と、何かのついでのように言われるのも胸が痛いのか、姉はぎゅっと、手を握り締めた。

「まあ・・最初から速水と3番機に乗るなんて夢、見なかった事は褒めてやるよ。でもね、同じパイロットになろうなんて、バカだね」
訓練は諦めた。校舎の方に向かって歩き出すと、すぐに姉の声が追った。

「何であんたにバカ言われなならんね?速水くんと芝村さんと壬生屋さん以外はみんな似たようなもんやがっ」
まだ、学校には皆が残っている時間帯。吐き出すような声も押え気味だ。


「2番機ね、僕が乗るから」
「え?」
「正式には、明日から」








+++ 繋ぐ手 +++





「・・ホラ」
なだめるようにコンビニで買ったジュースを渡す。姉は受け取ったけれど、飲もうとはしない。
ガードレールに腰掛けると、姉もその横に座った。

「何?一応心配?」
くすっ・・と生意気な顔で笑ってみせた。
でも、姉は俯いたまま、手の中の独特の形をしたジュースのビンを、力なく握っている。

「何かさぁ・・言い返してよ」
溜息とともに吐き出した声が、しまったと思うほど優しくて、苦笑した。

「速水くんも芝村さんも壬生屋さんも、いつも帰って来るわ。スカウトの来須くんも若宮くんも。でも、友軍は同じ戦闘で沢山・・・」
少し落ち着いたのか、姉の言葉は標準語に戻っている。
姉の訛りは、僕が弟になる前に、姉が育った遠い地の言葉なのだろうか。

「確率は、極力減らすさ。その努力はする。僕は『万能』じゃない。無難に何でもこなす『便利屋』だからね。・・・僕も、いつも帰って来る。みんなと、帰って来る。それでいい?」
そう言い、姉の手の中にあるジュースを取った。


ポン・・


栓を抜くと、炭酸がわずかに吹いた。一口飲んで、また姉に渡す。
「それさ、覚えてる?」
「それ・・?」
「こっちの話。それより、滅多に人に奢ったりしない僕が買ったんだ。飲めよ」
「ジュース一本で偉そうに」
いつもの憎まれ口に何となくホッとしたのか、こくんと飲んだ。


おそらくあれは、ちょっとした子供の癇癪で、何の用意もなく家を飛び出したのだ。
主犯は姉か、自分か、どちらだったのか。
覚えているのは、知らない道を二人何処までも歩いていた事。
夏休み。熱をもったアスファルト。前方には陽炎。麦藁帽子が、姉の顔に濃い影を落としていた。
決して、仲が良かったわけじゃないのに、汗ばんでも繋いでいた手。
坂の上にあった小さな店で、姉はラムネを二本買った。
ただ、それだけの出来事だ。姉が覚えてなくても無理はない。


「なあ、まだ162cm?」
「まだって、私はもうこれで伸びないわよ」
「僕は159だ」
「私と張合ってどうするの。それに、あんたはこれからでしょ」
そう。これから、骨もきしむ程の成長期に入る身としては、3cmはたいした数字じゃあない。


「飲んだ?じゃあ、帰るよ」
空きビンを買った店に返し、姉の立つ場所へ戻ろうとすると、二人の間を通り過ぎた車の音に、消されかけた声を聞いた。


「・・・絶対に死んだら、いけませんからね」







いつも、二人一緒に帰っていた。
帰りが遅いから、だから仕方なく姉と一緒に帰ってやる、そんな態度で。
実際、何か照れくさいものだし、それはそれで、嘘ではなかった。

だけど、今日は、どうかしていると思われてもいい。手を繋いで、帰ろう。


「重くないから、いいわよ?」
差し出された僕の手を見て、姉は肩に掛けた自分の鞄を軽く持ち上げた。
笑って首を振り、手をとる。そして、歩き出す。

決して、仲が良かったわけじゃないのに、汗ばんでも繋いでいた手。懐かしい夏の記憶。
違和感は、季節のせいではない。手は、すでに僕の方が大きくなっていた。


「何何何か、近所の人に見られたら恥ずかしぐね?あんた、どうしたの?」
困り顔で、僕の制服の肘の辺りを引っ張る。僕は、構わない。

「・・・何か、罰ゲームみたい。何であんたと手を繋いで帰ってるんだろ」
ヒドイ言われようだが、振り解くわけでもなく。



「ねえさん、まだ速水を好きでいろよ」
「だから、どうしてあんたにそんな事まで言われなきゃならないの。しっかも偉そうに」
呆れたように、まだ余裕の標準語。
「他は・・来須でもいーや」
「何でそこで全然違うタイプを持って来るんよ?」
ちょっと、訛った。少しの動揺。
「教えない。怒るし」

姉が速水を好きな内は、僕は安心していられる。来須でもそう。
彼らは、きっと、姉を好きにはならないから。

姉が好きな人は、姉を好きになってはダメ。中々、分かり易い事を考えている自分が可笑しい。
しかし、このくらいを望むのは、許されるだろう。こっちは『弟』から、始まったんだしね。



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2006.09.08 *Fri*

来舞

※このお話は、
『猫と住む人』の続きになります。が、お読みになってなくても差し支えないと思います。
2行目の『魚の骨』が何の事やら分からないだけで。
ネタバレ、といいますか、むしろ善行の関東帰還を知っている方対象(笑)






+++ 二重星 




「どうだ」
舞は親にほめて欲しい子供のように、弁当箱の中の魚を見せた。正確には、魚の骨だ。

「よく出来ました」
善行はいつもの動作で眼鏡を上げると、苦笑にも似たわずかな笑顔を見せた。



「お前、いつから私が好きだったのだ?」
くるりと善行を振り返り、舞は無邪気ともいえる質問をする。

「・・・答え難い事をさらりと聞いて来ますね、あなたは」

やはり善行はそう言った。
出来れば、そこで話を終わらせたかったのだが、舞は待っている。

「おそらく、あなたと同じ頃からですよ」
「ふん、私がいつからお前を好きだったかなど、私にも分からんのだぞ?」

舞は、まだ納得出来ないという様子で善行を見ている。
しかし、善行は舞の頭をぽんぽんと撫でる事で、今度は話を終わらせた。

「明日な、ここに行きたいが良いか?」

次の日曜日には、一緒に出かける約束をしていた。それが、明日だった。
舞がごそごそとポケットから取り出し見せたのは、博物館(プラネタリウム)のチケット。
投影機のシルエットと夜空の絵が書いてある。

「明日は雨というし、プールは寒かろう?
 サッカーなら多少の雨でも試合をするから、サッカーの方が良いか?あるぞ」

面倒とばかりにチケットの束を取り出した舞。
準竜師は一体どんな顔でこれらの陳情を受けたのだろう。善行はくらりと頭を抱えた。
抱えて・・何だかどうしようもなくて笑ってしまった。

「・・おい・・・」
声を出して笑う善行なんて予想外である。舞は笑われた事を怒りもせず、呆然と彼を見ていた。

しばらく笑って、善行はゆっくりと顔を上げた。
泣きそうな笑顔の下に、静かな決意があった。






+++ 



朝のHR。
本田からの報告は簡単なものだった。

「コラ、芝村。何処へ行くんだ」

本気で止める気などない本田の声は無視して、舞は教室を出た。
重苦しい雰囲気を教室に残して。

(・・・なぁ、芝村さんも知らんかったみたいやけど・・)
(ええ・・急だとしてもあんまりですね・・)


「コラ、来須。何処へ行くんだ?」

今度は大目に見るわけにはいかないとマシンガンをかまえる。
来須は大きな手で銃身を掴むと、銃口を天井に向けた。
慌てて舞を追う様子もなく、彼はゆっくりと出て行った。

舞の足音は下へと消えた。屋上ではないとなると、行き先は沢山ある。
しかし、来須は迷う事なく小隊隊長室へと向かった。




入ると、舞は司令の机に突っ伏していた。
肩は震えていない。「誰だ」という声も泣き声ではない。
顔を少し上げて、入口を見る目も赤くない。

「・・・・・」
「・・・・・・・」

「・・・・・・うるさい」
「何も言ってない」


「・・・・・・・・昨日、行くはずだった」

舞はプラネタリウムのチケットを取り出し、机の上にパサッと置いた。
校門前で待っていたのに来なかった。ひどい男だと思った。


「あの男は『行く』と言った」

帰還。
少なくとも、ずっと考えていた事とは思えない。彼に一体何があったのか?
舞は善行の意識の変化に置いて行かれた。




「行くと 言っ 」


言葉は途切れて、能面のようだった表情が崩れる。
見開いた目にたまった涙が、ぎゅっと瞑った瞬間ぽろぽろと零れ落ちた。


「次の日曜に、俺と行こう」
「戯け。お前と行ってどうするのだ。私はプラネタリウムに行きたかったわけではない」
「俺は代わりだ。お前は、行くはずだった場所に行っておいた方がいい。
 約束事は、果たされなければいつまでも心に残る」

来須は舞の返事も聞かずに机の上にあったチケットを取り、小隊隊長室を出た。
そこで、召集がかかった。こちらの都合に関係なく、幻獣は出る。







+++



いなくなるなんて、思いもしなかった。
けれど今は、

   もう帰って来ない

その予感だけが。



+++






トン・・トトン・・とんとん・・トン・・とんとん・・

小雨の朝。校門の前。
白地に赤い小花模様の傘を手に、髪を下ろした舞が立っていた。



トトン・・トン・・   

見上げると雨雲は薄く、傘を叩く雨音も弱い。この分だと午後には晴れるかもしれない。

「天気まで同じか・・これでは、まるで時が戻ったようではないか・・」

せめて、善行が来ないのは分かっている。
あの日のように、不安な気持ちで傘を握り締めなくてもいい。

ここに立ち、来須を待って、来須が来て、一緒に博物館へ行って、それでどう変わるというのか、
舞にもそんな事は分からない。
ただ、叫びたいのに声が出ないような、足元がずっと揺れているようなこの気持ち悪さを、
来須はわかっているような気がした。
それならば、彼の言う事には意味があるのかもしれない。
そう思って、来てみたけれど・・


傘をたたむと、正面の道に来須の姿が見えた。






+++



ゆるい坂を上りきると、博物館がある。
途中で、独特の形をした屋根が見え始めた。
濡れたアスファルトがもう所々に乾き斑になっている。
夏はまだ遠いというのに。




金色の3.1等星とエメラルド色の5.4等星の美しい二重星。
「天上の宝石」と呼ばれているこの星の名はアルビレオ。
しかし、来須は星座を追うわけでもなく、ただ悲しそうな目をしてドーム型の天井に映し出される人工の星空を
見つめている。

夜独特の開放感からか、舞は小さな声で来須に聞いてみた。

「何故、男は突然いなくなるのだろう。理由があるなら告げて行けと思う。
 それとも、私に原因があるのであろうか?みんないなくなってしまう・・のは」
「俺は、善行の理由しか分からん」

「善行はお前には話したのか?」
「あの男は誰にも話さない。だが、分かる」

「聞けば、教えてくれるか?」
「・・・嫌いになったのではない、とだけしか言いたくない」

「言えないのではなく、言いたくないのか?」
「そうだ」

舞はしばらく来須の顔を見つめていたが、座り直し、また星空に視線を戻した。
もう、それ以上を聞いては来なかった。

遠く離れた地で、本来の力を発揮する決意をした彼を、いつか、舞も知るだろうか。
そばにいて盾となり守るよりも、もっと大きな翼を広げた彼に、いつか、舞も気づくだろうか。





「俺と来い」

「何処へだ?」
「何処へでも連れて行く」



「私は、お前が好きになるかもしれない。だが、今は善行が好きだ」
「それでいい」

善行が好きだった。
それでも、肩を抱く来須の腕は、心地良い。















                                連れて 行って











外へ出ると、薄い雲の向こうに、太陽が見えた。
雨は、東へ。






+++



「上級万翼長、傘を」
「小雨ですよ。すぐに止むでしょう」
「まだ、冷たいですよ」
「大丈夫です。丁度、心地良いくらいですよ」

あの日、こんな小雨の中を待っていただろう少女を思うと、身勝手にも心が痛む。
今は、まだ泣いているのだとしても、少し未来の君は

幸せであれ





少し未来の君は 幸せであれ









++++++++

(2002.3.18作品)


『善行が関東に帰還します。
 もう善行は、帰ってきません』

この『もう帰って来ません』てのが淋しくて善舞にハマったような記憶が(笑)
帰還イベントがなかったら善舞はさほどでもなかったもだ。
言葉通りもう帰って来ない人であって欲しいので、わたくしの中では善舞にハッピーエンドはなし(酷)

『猫と住む人』がほのぼのとしているので、続きのこれを書き上げる気にならず何ヶ月も放置。
今では善舞(来舞)目当てに来てくださっている方もいらっしゃらないのではと思うが、
ここに来てようやく仕上げたので出すべし出すべしと。

ラストですが、善行は『君』ではなく『あなた』でしょうが、文字の流れ的に『君』の方がしっくりと来るので。
(そんな理由じゃイカンだろうが)

告白は屋上と決まっているのですが、勢いで言うておけや来須と(笑)
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2006.09.08 *Fri*

善舞

猫と住む人+++



小杉ヨーコ、来須銀河、岩田裕、善行忠孝、そして、芝村舞。
共通の話題というものがあれば、それは一体?
と、問いたくなるようなこのメンバーで昼食をとっているのは、
ヨーコが『みんなでお昼』を提案した時、プレハブ校舎二階にいたのがこの5人だったからだ。


舞は『岩田の隣の隣の席』を狙った。
絶えず<くねくね>としているこの男を視界に入れて食事などすれば(酔う)と、直感的に判断したのだ。
岩田、ヨーコ、舞が並んで座り、向かいに来須、善行が並んで座った。


ヨーコの話を、来須が相槌こそ打たないが聞いている。
岩田は勝手に電波を受信送信している。
善行は淡々と食事をしている。
そして舞は、

「・・・芝村さん、何か欲しいおかずでもあるんですか?」
善行にそう言われてしまう程、舞は彼の弁当を見ていた。

「いや、魚の食べ方がキレイなので感心しておった」
「ああ、そうですか。こういう事には厳しかったのでね」

舞は自分の弁当に視線を戻した。
善行の弁当箱の中で、気持ち良く骨だけとなった魚に比べると、
骨はバラけてしまっているし、身も散らかっているしでみっともない。
ふと、隣の隣で妙な動きを止める事なく食べている岩田の弁当を見れば、
こちらの魚も、標本のようにキレイな骨だけになっているではないか。

(・・・岩田に、負けた。他の誰に負けるよりも悔しい気がする・・)
舞はがっくしと肩を落とした。


+++


「ねー、コンビニへ買出し行くけど、何か要るー?」
二十二時を回ったというのに、ハンガー内にはほぼ全員が残っていた。
仕事はまだ終わりそうになく、味のれんも閉まる時間なので、荒井木が皆の注文を聞いて回っている。
「私も行こう」
丁度キリが良かったので、舞も一緒に行く事にした。
「じゃあ、小隊隊長室にも声かけてくれる?
 僕は荷物持ちに男の人一人捕まえて来るから、校門で待ってて」
「わかった」


小隊隊長室に入ると、正面の机に善行の姿は見えなかった。
「買出しに行くのだが、何か要るか?」
「あんな、おにぎりやったら何でもええわ。おにぎり二つと緑茶、頼んでええ?」
加藤祭が椅子の背もたれに肘を置き、にこっと笑った。
「わかった。善行はどうした?」
「食事して来る言うてはったから、要らんのとちがう?」
「そうか」
机の上には、書きかけの書類が置きっぱなしだった。
(とてもキリが良い所で食事に行ったとは思えんな。几帳面に見えてよくわからぬ男だ。
 それより、重要ではないにしろ、このように書類を机の上に広げたまま席をはずすのはどうかと)
そう思いつつも、達筆には感心した。魚の時とは違って、舞も字には自信があったのだけれど。



校門で待っていると、すぐに荒井木と若宮がロビーから姿を現した。

「やっぱり、おにぎり希望の人が多いねー。売り切れてなきゃいいんだけど」
「具を選好みしなけりゃ大丈夫だろう」
そんな話をしている二人の後ろを、
(・・・しまった)
という顔でついて歩く舞。
この二人が『最近つきあい始めたらしい』という話は、加藤から聞いて知っていた。
気分転換を兼ねて、散歩がてら荷物持ちになるつもりだったが、若宮がいれば舞の手は必要ないだろう。

「ねー、芝村さんは何にするのー?」
逆に気を使ったのか、荒井木が振り向いて声をかけて来た。
「サンドイッチにしようと思う」
「サンドイッチかあ・・ねえ、芝村さんて速水くんが好きなの?」
「・・・はあ?」
「いや、だって仲良いし。ちょっと噂になった事もあるし」
荒井木はいたずらっぽく、へへっと笑った。
(噂っ?いつ!?・・・知らない・・私は知らない。そしておそらく速水も知らないであろう・・)



コンビニのマークが入ったビニール袋を下げてハンガーに戻ると、皆が仕事の手を休めて集まって来た。
舞は自分と祭の分を取り出すと、小隊隊長室へ向かった。

「おおきにな。うちも一休みするわ。一緒に食べよ」
一度大きく伸びをしてから、祭はごそごそとおにぎりを取り出した。
好きな具だったのか、嬉しそうにペリペリと包装をむいている。
隊長室は狭い。戻っていた善行が仕事中なので、舞は教室に移動した方が良いのではと思ったが、
善行はこちらの事は全く気にしてない様子で書き物をしている。

「芝村さんはサンドイッチが好きやねえ。やっぱ紅茶が好きやからかなあ〜。
 あんた、ホント速水くんと好みが似てるなあ」
「好みが似ているせいかどうかは知らぬが、妙な噂も流れたそうだな。
 私はさっき荒井木から聞くまで知らなかったが」
「あはははー。一組のもんはいつもあんたら見てるから、そんな噂、笑って終わらせたけどなあ。
 まあ、みんな楽しい話題はいくらでも欲しいもんなんよ。あんたもそう眉間によせんと、笑ってすましたりィ」
「もうよい。荒井木も過去形で話しておったし、本人の知らない所ですでに終わっている話だ」
「それはそれとしてや、芝村さんて好きな人おらへんの?」

ブッ

「その古典的な反応、岩田が喜びそうやねえ。スバラシイィィーとか言うて」
ティッシュの箱を差し出し、祭が笑う。
「で、誰やのん?」
祭は誤魔化されたらへんよ?というように、噴出した紅茶を拭いている舞の顔を覗き込む。
「・・・加藤は?」
「うち?狩谷くんなんよキャッ・・って前にも言うたやん!」
「・・・二人とも、私がここにいる事を忘れないでくださいね」

善行の一言に助けられて、大急ぎでサンドイッチを紅茶で流し込むと、舞は小隊隊長室を後にした。


+++


その夜、舞は薄い布団に包まりながら、律儀に考えていた。

最初に気になったのは、猫を飼っていると聞いたからだった。
素直にいいなあと、そう思ってしまった。

(魚をキレイに食べられる男は、好きだ。キレイな字を書ける男は、好きだ)

くるんと寝返りをうち、もう一度寝返りをうち、布団の中に潜ると、舞はやっと目を閉じた。
明日また、好きな所を見つけるのかもしれないなんて思った事は、見た夢と一緒に忘れてしまった。


(2001.7.19作品)

ついでに同じ頃描いた善行司令↓



↓当時のコメントです。
この後、『恋人関係』になって『関東帰還イベント』になだれ込んだ(笑)のですが、
ほのぼのからイキナリ暗いシリアスになってしまったので、これはこれで別に仕上げようと思います。
来須×ヨーコさんの方には申し訳ないのですが、来須とヨーコさんはウチでは『恋人関係』ではありません。
でも、仲良くして欲しいです。ヨーコさん個人は好きなんですよ。来須以上に情熱的に追って来てくれるわ、
いつも弁当くれるわ、日曜は誘ってくれるわで。来須は『Hな雰囲気』中でも「田代は何処だ」だの
「加藤は何処だ」だのマップからとっとと一人出て行くだので、一人おのれ〜がかなり情けなく、もう
「出て行かれる前に出て行ってやるぜっ」と、わたくしの中で何かが間違ってしまっていました(笑)

タイトルは・・・速水くんも猫飼っていましたね(忘れてたんかい)
嫌いなのに飼っているという善行の方が印象度が上だったんです。旗も高ポイントです。
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2006.09.08 *Fri*

滝萌


一歩、片足を前に。その後はホラ、歩き出せる。






+++ もうひとつのハル



「石津さんは?」
「・・・え・・?」
「一緒に味のれんに行く?」

速水にそう言われて、俯いたまま周囲を見回す。
瀬戸口の靴。来須の靴。滝川の靴。
味のれんというからには、滝川がお昼の提案をしたのだろう。

「わたし・・は・いい」
「そう?じゃあまたね」

昨日見たテレビアニメの話をしながら教室を出る滝川と速水の後に瀬戸口と来須が続く。
萌は瀬戸口と来須の事は好きだった。彼らは遠くで見るべき存在という安心感を与えてくれる。
彼らの知らない所で彼らに憧れるこの気持ちは自由だ。

それぞれに特徴のある足音が、プレハブの階段を降りてだんだんに消えた。



+++



軽く仕事をしてから整備員詰所で一人お弁当を広げて食べていると、
バタバタと騒がしい足音が近づいて来たので萌の箸が止まった。


ガラッ

勢い良く開いた扉から、眩しい陽射しに照らされた外が見えて反射的に目を細める。


「あ、気にしないでいーから」

滝川は救急箱から消毒薬を取ると、慣れた手つきで膝の擦傷にそれを塗った。

「食べてる時に薬品の匂いさせてゴメンな」
「・あ・・・うう・ん・・・・・・ケン・カ?」
「いや、転んだ」

そんな子供のような理由をさらっと言う。 勿論、それは嘘ではなく本当で。
萌は何と言っていいのかわからずに、お弁当の卵焼きを口に運んだ。


「弁当、自分で作ってんの?」
「・・あ・・うん」
「キレイに詰めてんだな。女子の弁当ってみんなそうなのか?こんな薄暗い所で一人で食べるのは勿体ねえぞ」
「・・・・・・」
「明日さぁ、オレ、購買でパン買うから、その、天気が良かったら屋上で食わねえ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・あ・・う・」
「まあ、気が向いたらでいいからさ。明日、また誘うから」

滝川は鼻の下を指でこすると、にかっと笑った。
箸をくわえたまま、来た時と同じようにバタバタと騒がしく出て行く滝川の後姿を見送る。
言葉を交わしたのは、今日が初めてだった。



+++



「屋上、混んでるの?いい天気だものね」

Uターンして来た舞と来須を見て、プレハブ校舎二階にいた原はそう言ってよく晴れた空を見上げた。



+++



滝川はコーラとやきそばパンを空いた椅子に置き、パリパリとサンドイッチの包みを開けた。
それを見て萌も自分のお弁当箱のフタを開けた。

「速水のサンドイッチも美味いんだぜ。中村や速水は料理得意でさ」
「・・そう・・」
「あいつらが作ったクッキーもすっげー美味いんだ。今度もらったら石津にも分けてやるからな」
「・・あ・・」

萌がもそもそとゴハンを数回口に運んでいる間に、滝川はサンドイッチを食べ終え、
今はやきそばパンをもぐもぐ頬張っている。
以前、味のれんで見かけた時、滝川は一番安いアップルパイを食べていた。
一日二食の外食なら食費もかなり必要になる。栄養的にも偏りがあるだろう。
成長期とはいえ小柄な滝川だが、その食べっぷりからして食欲は旺盛であるらしい。







「・・たべ・・る?」

萌は俯いたまま、思い切ったように楊枝をさしたいんげんの肉巻きをバッと滝川に差し出した。
いきなり萌の手が目の前に出され、滝川は驚いて顔を後ろに反らす。

「えっ?ええ?いいの?」

滝川は嬉しそうにそれを受け取ると、ぱくんとかぶりついた。
醤油の味が肉にしみていて、いんげんも丁度良い歯応えである。
ちょっと焼き過ぎて固くなってはいたが、十分に美味しい。
勿論、そう思うのは萌の手作りという付加価値があるからなのだけれど。 

「うん、やっぱ美味いわ。へへへサンキュな」
「・・・・・」


先に食べ終えた滝川は、ゆっくりとコーラを飲みながら、色々な事を萌に話しかけた。
戦争の事、学校の事、仕事の事、家に帰ってからの事。

「この前の日曜日さ、みんなでボウリング行ったんだ。
 ブータのヤツが器用にボール転がしてさ、しかもそれがストライクになるんだから驚くぜ」
「・・そう・・なの」
「石津もさ、今度一緒にどっか行かねえ?」
「・・・・大勢は・・苦手・・なの」
「じゃあさ、二人ならいい?」
「・・・・・・あ・・」

萌にはどうして滝川が自分を誘うのか分からない。
自分は一緒にいて愉快な人間ではないし、滝川と話が合うとも思えない。
でも、今、こうしているのは不思議と居心地悪くなかった。

「嫌?あ、はっきり言ってくれていいんだぜ?俺、察しが悪いから」
「・・・・・・・・・・・嫌・・」
「あ、はははは・・やっぱり?」
「・・・じゃない」

萌はほんの少し顔を上げて、滝川を見た。頬は、ほんのりと赤い。
言葉を交わしたのは昨日が初めてなら、目を合わせたのはこれが初めてだった。


「じゃあさ、どっか行こう。石津、何処行きたい?」
「・・・・・・プール・・」
「よっしゃあ!」
「・・以外」

顔を輝かせて振り上げた拳をがくっと落とす滝川を見て、萌は小さく笑った。








滝川の持ち物の中に『萌の手作り弁当』が登場するのは、それから五日後の話である。




+++++

(2002.6.4作品)
以下当時のコメント。
滝萌も可愛らしいカンジで好きなのですよ。
この人たち設定がとてつもなく暗いんですけど、
だからこそほのぼのと幸せ〜なカンジを書きたいですね。
今回はさあこれからって所で終わりますが(それ、得意だな)。
タイトルは、来舞の「ハル」から。考えるの面倒がりやがったなと思ってくれていいです。その通りだから(笑)
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2006.09.08 *Fri*

岩舞

この未来を僕は知らない






+++ 変わる世界 +++ 


不意打ち、それしかない。
しかし、岩田はカンが良い。
舞はなるべく岩田の顔を見ないようにして、彼の横に座った。
舞はいつも彼の向かいには座らない。食事中は視界に入れない。酔うからだ。

『いただきます』

岩田がそう言って手を合わせた瞬間、彼は濡れタオルで顔を思いきり擦られた。



「!!!・・・・・・・何・するんですかぁ?」

岩田はお弁当を落とさぬように押え、空いた片手で舞の両手首をパッパッと手際良く掴んだ。

「ちっ・・怒るな。その道化メイクを落とした顔に興味があるだけだ」
「怒りはしませんけどねェ、これはプロのピエロが使う特殊なものですから、
 普通のクレンジングでも落ちませんよ。ましてや、そんなオシボリでは無理です」

呆れて濡れタオルと舞の顔を交互に見る顔は、少しもメイクが崩れていない。

「化粧しっぱなしだとな、肌が荒れると原が言っておったぞ。
 酒飲みには休肝日というものがある。お前は休化粧日というのを作ったらどうだ」
「寝る時はしてませんよ」
「そうか」
「寝込み襲いに来ちゃイヤですよォ」

ここで舞ぱんちは予想通り。
岩田は弁当箱のフタでガードしながら、卵焼きを口に運ぶ。
卵焼きは舞の手作り弁当には必ず入っている一品だ。
味は毎日違う。
醤油がドバッと入ってしまっていたり、砂糖がドバッと入ってしまっていたりするのだ。
今日のはダブルでドバッ、だ。



暑くもなく、寒くもなく、外で食事をするにはいい季節。
天気も良いのだから、プレハブ校舎屋上で昼食をとる者はもっといて良い筈なのに、
今日は二人だけだった。

「何が見えるわけでもないが、ここからの景色は好きだ」

グランド向こうに見える団地は、真昼の太陽を白い壁に照り返して眩しいくらいだった。
人が暮らしている日常の風景。それが、舞をひどく安心させるのかもしれない。


「日曜日は出かけるぞ」
「イイですねェ」

先の日曜はチケットも持っていなかったので、新市街を歩いた。
岩田は目立つ。だから、はぐれてもすぐに見つかった。
背が高いという事もあるが、姿が見えなくても目撃者を辿ればよいのだ。
舞は、岩田がいつか父のようにいなくなっても、彼なら捜し出せるような気がした。


「遠坂君、どうぞォ」

入り難い雰囲気だったのか、階段の所で回れ右をした遠坂に岩田が声をかける。
それを聞き、遠坂はふとんを抱えて上がって来た。
ふとんを干すのが趣味というこの男は、天気が良い日は朝のHR前に干すのが日課になっている。

「遅刻でもしたんですかぁ?」
「朝もちょっと屋上に上がれなくてね。階段の途中で引き返しました。
 屋上で告白すればいい返事がもらえるなんて噂でもあるんでしょうか」

あるのだ遠坂。と、舞は心の中で呟いた。
二週間程前、わざわざ岩田を屋上に呼び出したのもその為だ。
思い出し、真っ赤になった顔を見られない内に、舞は図書館へテレポートした。
午後の授業にはいつも出ない。
立場上、午前の授業には出るようにしているが、舞にとっては物足りないというどころのレベルではない。
それは善行や原、岩田も同じで、彼らも午後は仕事をしたり訓練をしたりしている。


初めてのデートはここだった。
岩田は『昔のあなたを思い出します』と言った。
それは思わず呟いた独り言だったのかもしれないが、舞にも聞こえた。
その時のかなしげな岩田の横顔に、ずっと何の事かと問えずにいるけれど。

(昔・・会ったか?奴は一度見たら忘れんぞ。
 もしかしたら昔は素顔でフツーに歩いておったのかもしれん。
 そう考えれば・・・・・・・お前の人生一体何があったんだ岩田?
 いや、それはそれとして・・やはりそれらしい人物に会った覚えはないが・・)


今日は集中力に欠けると判断し、図書館を出て公園まで歩いた。
誰もいない公園は、天気が良い程どこか淋しい。

舞はブランコに座り、少しだけ揺れてみた。
ギィ・・ときしむ音と、鎖の錆びた匂い。
揺れに身をまかせていると、だんだん眠くなってきた。

(よし・・天気がよければ日曜日はここでいつもより豪華な弁当を食べよう・・・
 チケットを陳情してもよいが・・な・・
 イトコ殿に『ふ・・まあいいか、いいだろう』とにやりと笑われるのは・・嫌だ・し・・)



ベンチに移動したところで、そのまま眠ってしまったらしい。
気がつけば、背負われて学校へ戻るところだった。
ぼんやりと周囲を見れば、いつもより高い位置から見る風景。
舞を背負った体はくねくねとしてないけれど、薬品の匂いで岩田とわかった。

「起きたのなら、降りてくださいよォー」

気配でわかったのか、岩田が手を離そうとしたので、舞は慌てて腕に力を入れた。

「ぐえ゛・・っ!・・・・・・・・・はぁはぁ・・首をしめられては息が出来ません・・はぁ・・」
「降ろそうとするからだ」
「何故降りないんですかぁー」
「気持ち良いからだ。味のれんの前まででよい。学校の皆に見られると煩くてかなわんからな」

首をしめられてはかなわないので、岩田は大きな溜息をつき、また歩き出す。
背中が覚えている重みの差が切なくもあったけれど、もう感傷的になってそれを顔に出す事はない。





「ん?何か言ったか?」
「いいえ、何でもありませんよ」
「ぐちぐち言わずに味のれんまで頑張ってみよ」
「次の電信柱までじゃあダメですかぁ?」
「体力ないなぁ、お前は」
(アナタが重くなったんですよ)


岩田が知る未来は、また違ったものになるだろう。
何度も会える嬉しさも、何度も別れるかなしさも、知ってる。
それが、これで終わりの予感もないけど、世界は変わり、未来は変わる。


↓2001年当時のコメントです。


イワッチは攻めタイプじゃないと思うので、舞→岩田っぽいですね。
告白も舞からだし。
イワッチはどーしても保護者の位置に考えてしまうので仕方がない。

イワッチが子供の頃の舞の教育係だったという設定も、詳しくは知らないで書いてます。
ガンパレの設定はもう『電撃ガンパレード・マーチ』に載っている以上の事は、
知らないでもいいやというこの態度(笑)
でないとイワッチは書けませんて。こんなややこしい人。
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